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心の聖地のこと

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大学一年のとき、私は松本にいた。
世間知らずだった私はとあるカレー屋に入り、完全敗北を喫した。

カレーは戦いだ。

戦いにおけるノウハウを何も知らなかった私は、オアシスともいうべき具のジャガイモとゆで卵を早々に消費し、水を恥ずかしげもなく飲み、敗北宣言というべきラッシーを頼んでなんとか完食した。
長距離走を終えたランナーのようにサラサラの汗を流し、負けたくせに爽快感だけは残っていたことを、次の日トイレで起こった悲劇とともに覚えている。

なにもつらいのなら食べなければいいのにとも思われるだろうが、困ったことにうまいのだ。
ただ辛いだけではなく、うまさを表現するための必然としての辛さ。

そこには世界があった。
以来、求道者となった私はことあるごとに店に通い、世界の片鱗に触れたものだ。

その店をメーヤウという。
そして、メーヤウをメーヤウたらしめているカレーの名をインド風チキンカリーという。

タイ風レッドカリーの方がおいしいとはいう意見も多く、私もそれに賛成なのだが、どうしてもインド風チキンカリーの何かが私を惹きつける。
危険なまでの常習性はある。
うまいのも否定しない。
しかし、惹かれる理由を言葉にすればするほど、言葉にできなかった何かが心の中にひっかかる。
そして、インドチキンカリーを食べた人は誰もが哲学者になる。

つまるところ、食べて、そして感じるしかないのだろう。

さて

カレー魂の傀儡となった私が、ファーストインパクトのメーヤウを巡礼しないわけにはいかない。
これがよくしたもので、松本にあるメーヤウの兄弟店が神保町にある。

メーヤウはもともと東京の信濃町にあり、お店で修行した人たちが松本と早稲田と神保町に店を出していて、同じ名前の看板を掲げている。
ただ、不思議なことに松本と早稲田と神保町の味は似ているものの、信濃町店だけは少し味が違う上に、インドチキンカリーにあたるカレーの名前がメーヤウカレーとなっている。

横浜カレー博物館がオープンした当初、メーヤウ信濃町の支店が出店されており、行って食べたものの、私の中のメーヤウ性と呼ぶべきものは若干しか含まれていなかった。
横浜カレー博物館に一度しか行かないまま月日は流れ、あるとき気づくと支店はなくなっていた。

会社の後輩を誘いお昼ご飯に行ってきた。
会社から歩いて15分。
神保町の三省堂の近くにあるマクドナルドの隣の道をずっと水道橋方向に入っていき、あきらめるくらいに歩いた場所にその店はある。
遠いといえば遠いのだが、大学時代に松本を離れ、60kmくらい南の伊那という町に住んでいたときに、友人たちとただメーヤウのカレーを食いたいがためだけに、よく松本まで車を飛ばしたことを思えば近いものだ。

お昼どきなので店内はいっぱい。
カウンターに通された。
ただよう店内の香りに私の眠っていた脳細胞がごそごそと起き始める。

私はタイ風レッドカリー、後輩はインド風チキンカリーをたのむ。

久しぶりの修行に気分が高揚する。
来るたびに、自分が試されているような気になるのだ。

待つこと数分。
カレーが出てきた。

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まずは私の頼んだタイ風レッドカリーから手をつける。
ココナッツミルクをベースとしたカレーで、具には大根とタケノコが入っている。
口にすると軽い香りが鼻腔へと抜けていく。
そしてタイムラグを置いてジャブのような辛さがやってくる。
入っている緑の葉っぱを刻んだやつがうまいのだ。
インド風チキンカレーよりもマイルドとはいえ、髪の奥から汗がにじんでくる。

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相変わらずメーヤウがメーヤウであったことに安心しながら、テーブルの上にある青唐辛子のナンプラー漬け(ナンプラープリック)をご飯の上にかけていく。
これをいっしょに食うと、ナンプラーの香りと青唐辛子のジャリッとした苦味があわさって、より深い味になるのだ。

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後輩は横で一口目で「うっまー! なんだこれ!」と叫んでいる。
インド風チキンカリーの第一印象とはそういうものだ。
しかし、見ているとだんだん辛さが体にたまってきたらしく、汗が噴出し口数も少なくなってくる。
インド風チキンカリーの辛さは各種スパイスによる総合力の辛さだ。
だからただシンプルに唐辛子の辛さのピークだけがそびえているわけではなく、トップの華やかな辛さから、後引きの強いボディーブローのような苦味に近い辛さまで、満遍なく堪能させてもらえる。
スパイスのラッシュを受けていながら、「うまい。なんだろう」と自問自答を繰り返している。
たいした奴だ。

私も、もらって食べてみる。
これだ。
「これ」としかいいようが無い。

インド風チキンカリーの色は黄色がかった茶色で表面には赤い油がにじんでいる。
具は良く煮込まれた手羽元とジャガイモとゆで卵だ。
ジャガイモとゆで卵は時折食べることで自分の位置を確認し再び挑むための、休息地点のようなものだ。
だから早く食べ過ぎても残してもいけない。

もちろん水を食べている途中で飲んではいけない。
カレーに浸っている空間に水を注されるからだ。

私がタイ風レッドカレーを完食してからしばらくして、後輩もインド風チキンカレーを食べ終わった。
私も後輩も顔に玉の汗が浮かんでいる。

サービスのラッシーを飲んで外にでる。
涼しく乾いた風が熱くなった体を冷やしてくれる。

「カレーってスポーツっすね。
さわやかに食べると芸術点が高いんすよ。
そのうちオリンピック正式種目になりますよ。
間違いないっすよ。」

長い帰り道の中で後輩が口にした。

彼も求道者になったようだ。

メーヤウ(神保町店)
〒101-0064 東京都千代田区猿楽町2-2-6
TEL 03-3233-0034

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コメント

メーヤウ食いたい
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メーヤウ食いたい
メーヤウ食いたい

いいから、東京に来い。
メーヤウも食えるから。

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